ゼピロスの降りた島

この作品は、瀬戸大橋ができて10年後、しまなみ海道が開通した直後の2000年(平成12年)に作ったものです。ゼピロスとは、ギリシャ神話に登場する西風の神の名前です。地中海地方において西風は豊饒を約束する風でした。瀬戸大橋が完成に近づいた1980年代のはじめごろ、この夢の架け橋をゼピロスに見たて、瀬戸内地方に豊饒の西風が吹くものと誰もが信じていました。そして橋が完成して10年余りがたち、明石海峡大橋、しまなみ海道が開通し、瀬戸内は新たに3橋時代を迎えました。しかし、このとき議論の中心となったのは、瀬戸大橋ははたして豊饒の風を吹かせたかということであり、3橋時代にゼピロスの再来を期待する声は聞かれませんでした。

ゼピロス8

左は、岡山県の山陽新聞社から、1984年に創刊された環瀬戸内生活文化誌「ゼピロス」です。新しい時代を迎えた環瀬戸内エリアに新風を巻き起こさんとの思いが、誌名に込められています。

以下、表紙に書かれていた巻頭文を紹介します。「環瀬戸内エリアは今、世紀の大プロジェクト本四架橋建設とともに確実に新しい時代を迎えようとしている。時を同じくして、情報化社会の急速な進展は、情報ということばのもつ本当の意味と意義をあらためて問いなおす方向にその舵を向けはじめている。情報の質そのものが問われるニューメディア時代の到来である。そして今ここに豊饒を約束する西風の神ゼピロスの名を冠し新しいアングルで環瀬戸内のあらゆる情報を的確にとらえる広域エリアマガジンの創刊である。」

瀬戸大橋の完成を目前に、この橋に対する期待がいかに大きなものであったかがうかがわれます。世の中の景気も絶好調のころで、誰もが橋による文化、経済の交流・発展を夢見られる時代でした。

 

「ゼピロスの降りた島」 解説

163今瀬戸内は、しまなみ海道の開通で、3橋時代をむかえました。多くの夢が語られる中、このプロジェクトの成功は、ある面で、瀬戸大橋の見直しにかかっているとも言われています。中でも、橋の中央に位置して、橋脚の島となった与島の移り変わりは、大きな示唆に富んでいると考えられます。

与島は周囲4.3キロの小さな島です。瀬戸大橋ができるまでは、採石業と農業しかない、注目されることのない島でした。橋が架かるとレストランや展望台ができ、人が訪れ一気に活気付くようになりました。当初よりゼピロスが降りた島としてマスコミでも話題になり、その後も大いに豊饒の西風が吹くものと期待されました。そして10年がたちました。今再び新しい時代への夢がふくらむ中、かつて同じように活性化と繁栄を期待された島がどうなったか、私は、吹いた風の形跡を求め渡ってみました。

カメラ:ニコンF4、フィルム:トライX、スキャナー:ニコンスーパークールスキャン4000ED、画像処理:フォトショップ6.0

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