父の写真日記 |
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我が家は男の子が4人です。今から少し前、家族6人がまだ一つ屋根の下で一緒に暮らしていた頃の話です。小学生から高校生まで、親の思うようにはいかない子ばかりでしたが、父も母も気持ちは充実し、目の前に起こることや周りのものすべてが、生き生きとして見えたように思います。しかし、一方ではそろそろエンプティー・ネストも始まろうとする頃で、子供たちの成長がさみしく感じられ、複雑な心境でもありました。 カメラ:フジカルディアミニティアラ、リコーGR1、ニコンF4 フィルム:フジクロームベルビア |
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この作品は平成9年(1998年)に作ったものです。子供たちが皆家を出て、エンプティー・ネストとなってしまった今、子供たちがいて子供たちを中心に喜怒哀楽が展開された日々が、家や夫婦にとって最も貴重な楽しい充実した瞬間であったことを実感しています。 |
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我が家の中心は何と言ってもこの人。母として子供たちのことはいつも気になっている。すべてにわたって仕切っていなくては、何が起こるか分からない。 |
わがファミリー。一人の母と四人の男の子。末っ子の四男はみんなに甘やかされながら育っている。父を除いてまだ誰も、四男の本当のしたたかさには気がついていない。 |
長男のりまさは四男けんじがかわいくて仕方ない。けんじがどのように思っているかなど関係ない。 |
台所の片隅にドラムのセットが置いてある。いつの日からか、その上をアホウドリが飛ぶようになった。 |
子供たちはファミコンのボタン一つで夢世界。彼らをコントロールできるボタンはないのだろうか。 |
受験生の勉強机。絶望が山のように積まれている。 |
けんじが右手の指を骨折した。勉強ができず困る親の前で、神妙な顔を見せてはいるが、何かほくそ笑んでいるように見えたりもする。 |
折れた指は夜はとても痛い。けんじは一晩痛みに耐えた。父と母も心の痛みに耐えた。 |
子供たちはビートルズに熱中している。父や母もビートルズで育った。ビートルズは遺伝する。 |
玄関には白い鯉がいる。来る人みんなに愛想するのが仕事である。おかげでストレスがたまり太れない。 |
父の愛読書はアラーキー。トイレの中までアラーキー。決して尊敬されることのない父だが、いつの日か天才と呼ばれることを夢見ている。 |
あきひとが友達とパチンコ店で補導された。タバコもばれた。本人より母のショックが大きい。母の頭は彼らを理解できるようにはできていない。 |
先祖のとなりでは、子供たちが友達を集めてファミコン大会をしている。おかげで先祖もおちおち眠れない。 |
冷蔵庫の中はごらんの通り。食べ残しもこうして、忘れたころまた食卓に現れる。苦労して育った母は、食べ物を捨てたら目がつぶれると言う。わが家から食中毒がでるのも、そう遠い日ではないだろう。 |
洗濯物はいつも家の中に干してある。外は晴れているのにどうして家の中なのか。心に雨が降っているからだと母は言う。 |
玄関では生けられたひまわりが日々ナチュラルにゴッホ化している。これが本当の芸術だと母は言った。 |
久しぶりにマージャン好きのばあさんがやって来て、孫を集めてジャラジャラ始めた。孫たちは、何のこんたんあってか、ばあさんに勝たせてばかりいる。 |
裏の窓には夜な夜なヤモリがやって来る。彼はわが家に起こる一部始終を見て退屈しない。 |
外では珍しく虹が出た。父は今度こそ芸術写真が撮れそうだと喜んだ。父も本当はみんなにほめてもらえるような写真が撮りたいのだ。 |
近所の長老が散歩の途中でわが家に寄った。しばらくして突然鬼籍に入り、人生最後の写真となった。長老のポートレイトは撮るものではない。 |
部屋には3年も前から同じカレンダーがかかっている。父も母も月日は関係ない。毎日同じことをくり返しているだけだ。 |
近頃、福が少しずつ減って何となく悲しい父。足りない分を金で買う。福が増えすぎて困っている子供たち。その金くれれば分けてあげると言う。 |
バスケットゴールにマウンテンバイク。頭のいい兄たちは、けんじを通して欲しいものを手に入れる。 |
のりまさが大学へ入り、自画像を残して家を出た。子供たちの明日が始まった。やがて来るエンプティー・ネスト。父と母の覚悟も始まった。 |